“未来の手術”を体験する

Philipp Grätzel von Grätz |  2018-12-25

内科にとって分子生物学の研究が重要なように、外科にとって技術の進歩はきわめて重要です。たとえば、小型化、自動化、画像の高精細化、デジタル化、AIなど、数々の新技術が新しい道を切り拓いています。では、20年後の手術はいったいどのような変化を遂げているでしょうか?患者が綴っているブログを見てみましょう。

 

しばらく何事もなかったのに、またあの時の状態に戻ることになりました。数年前、私は大腸がんの治療を受けました。がん切除はうまくいき、治療も終わると思っていたのに、実際はそうではなかったのです。お医者さまからは、肝臓にがん転移が見つかったので、急いで切除したほうがいいと言われたのです。本当に、つらく、悲しいです。ひょっとして、手術を先延ばしにしたほうが長く生きられるのではないかとすら、考えてしまいます。コメントをお寄せいただけるとうれしいです。

肝臓がんが見つかった経緯をお話ししましょう。気分が悪いとか、不調を感じていたわけではありません。先週、保健指導の担当者から連絡をもらい、MRIと超音波の検査を受けに来てくださいと言われました。実際のところ、連絡しろと命じたのは、私の「デジタル・セルフ」でした。数年前に大腸がんと診断され切除手術を受けた際、この「ツイン」が作られました。それから、内臓内部を詳細に記録するため、お医者さまは私に、年2回小さなカメラのカプセルを飲むよう指示しました。このカプセルは腸内のさまざまなバイオマーカーを測定し、得られた情報すべてをデータベースに送ります。血液サンプルのデータも、これまでに収集されたさまざまな診断データも、私のデジタル・ツインの一部ということになります。詳細はよくわかりませんが、基本的には、がん治療後の私のデジタル・ツインと、何百万ものがん治療を終えた患者さんのデジタル・ツインとの比較がなされているそうです。これらすべてAIと関連しています。多くの患者の長期フォローアップのデータを基に、アルゴリズムが腫瘍再発の確率を計算します。特定のしきい値を超えると、アルゴリズムは警告を発します。私のケースでは、保健指導の担当者(これは実在の人です) が訪ねてきて、私に検査に来るようにと言ってくれたというわけです。アルゴリズムは正しく、確かに転移が見つかり、精密検査が必要になったのです。続きはまた。

お医者さまは、できるだけ早く転移した部分を切除したいと考えているようです。もう準備は始まっていて、CT、MR、超音波のスキャンデータを元に、驚くほど緻密な肝臓の3Dモデルが生成されました。お医者さまからは、私自身がこの肝臓モデルを操作できると教えてもらいました。すごく驚いたのは、肝臓という臓器がものすごく複雑だということです!多くの血管がいっぱいに張り巡らされています。残念なことに、転移は大きいようでした。現時点でこれが何を意味するのかは分かりませんが、じきにわかるでしょう。

あれから、綿密な治療計画が立てられています。私も医学についてたくさん勉強しています。お医者さまが、小さな腫瘍はロボットが補助するアブレーション器具で「焼灼」できると教えてくれました。これは、病変まで切開するのではなく、皮膚に何本かの針を通して行われるということでした。小さな転移に関しては外科手術で取り除くこともできるそうで、このほうが安全な場合もあります。ガイドツールの助けを借りれば、低侵襲のインターベンションとなるということです。つまり、外科医は切開にロボットを使い、AR(拡張現実)装置が示す関連情報に基づいて手技を進めるでしょう。これら2つの選択肢を選ぶにあたり、患者のデータセットを、前に紹介した国際的な患者データベースへと送り込むのだそうです。それから、関連するお医者さまたちがシミュレーションを行い、その患者に最適な方法を選択するということでした。とはいえ、これら低侵襲アプローチのどちらも、私にとって効果的なものではありませんでした。さらに、従来の手術法は選択肢にすらならなかったのです。私の場合、転移を安全に治療するには大きな切除が必要で、体が正常に機能するほどの肝臓が残らない可能性がある、ということが問題でした。そのため、お医者さまからはもっと新しいアプローチを試してみないかという提案をもらいました。この中身については、きちんと理解してからお伝えしたいと思います。

今日は私の受けた新しいアプローチについてご紹介します。まず、肝臓の正常な部分の細胞を採取し、数週間ほど培養します。そうすれば、その培養された細胞から多くの情報を得ることができるらしいのです。そして、その細胞を「多能性」と呼ばれる一次的な状態に戻すために薬剤を使用します。こうして、必要な状態の細胞が得られるのだそうです。この多能性細胞が利用可能になるとすぐ、次のプロセスに進むスケジュールが組まれます。これが一番肝心なところでです。この段階では、腫瘍を含め、腫瘍が存在する肝​​臓の全細胞を「洗い流す」のです。これを行うために、肝臓全体の血液循環を止める必要があります。心臓移植の場合とほとんど同じですが、肝臓の場合、肝臓内の小さな回路だけで行います。肝臓部分の足場を残し、多能性細胞を注入して血液循環を再開、これらの細胞が正常で健康な肝臓になるようにします。この手順には数時間を要します。肝臓が正常に機能しているかどうかを確認するには、1日か2日ほど入院する必要がありますが、あっという間とも言えます。

そう、明日は大切な日です。正直なところ、少し不安があり、恐怖も感じています。周りの人たちはとても優しく、私をリラックスさせようと手を尽くしてくれました。私はお医者さまにシミュレーターで手術をしてほしいと頼みました。事実、シミュレーターは素晴らしいものだからです。周りの人は私を変わっていると言いますが、私は眠っていてすべてのプロセスが見られないのは、それはそれで悲しいと思ったのです。お医者さまがおっしゃるには、バルーンカテーテルを正確に配置するためにロボットを使用し、X線透視撮影装置、超音波装置、MRIが手順をモニタリングし、各プロセスが完了していることを確認します。多数のデータソースを持つナビゲーションシステムが、原則として外科医をガイドするのだそうです。私の肝臓の3Dモデルはもちろん、使用する器具まで、いたるところにセンサーが付いています。私の肝臓機能を測定するMRIシーケンスもあり、リアルタイムで3Dモデルに情報を送り、機能をアップデートします。想像をはるかに超える驚きがそこにはありました!

すべて終わりました!温かい励ましのコメント、本当にありがとうございました!それと、昨日はブログを更新できなくてすみませんでした。今は正直、とてもいい気分です。痛みもなく、自由にタブレットを使えています。今日はランチも食べることができました。今朝、外科のお医者さまと話しました。手術はうまくいったようですが、新しい肝臓組織が健康な箇所でうまく増殖するよう、とにかく腫瘍を取り除くことを選択したのだそうです。肝臓の中を洗い流したせいで色が透明になるなど、さざまなな変化を経て、デジタル・ツインをベースに腫瘍の全切除が行われました。手術は計画以上のものだったそうです。

家に帰ってきました!退院したのは数日前でしたが、なかなかブログを更新する気になれませんでした。今はだいぶよくなりました。さらに、いいニュースがあります。今朝、フォローアップのMRI検査を受けました。肝機能はきちんとしていて、MRIによると洗い流された肝臓の80%が健康な組織に置き換えられていると示していました。私の「肝臓 2.0」がちゃんと生きているのです。さしずめ部分的に新しい肝臓、と言ったところですが、それでもすべて私のものです!手術の最中および術後に得られた情報すべてが、データベースに送られるようです。この段階では、システムは何らかのクオリティ・チェックをするようです。お医者さまは満足そうで、控えめに言っても期待以上の結果のようですね、と語りました。本当にありがとうございます!

今日、フォローアップ検査を受けました。すべてが順調で、ほぼ、普段通りの生活に戻れています。がんが再発しない、ということではありません。その可能性もありますが、お医者さまがおっしゃるには、その可能性は高くないだろうとのことです。それを聞いて、とてもうれしくほっとしたのを覚えています。もちろん、モニタリングは継続しなければなりません。必要に応じてカメラのカプセルを飲み込み、臨床データを頻繁にチェックし、腹部のスキャンもこれまで以上に行われていくでしょう。それでも構いません。ひとつ、前向きなことがあります。以前、国際的な患者データベースと私のケースを比較照合したとお伝えしたことがありますが、このたび、私のデータをそのデータベースに提供してほしいという依頼がありました。私は、世界中の外科医や保健指導担当者が私のデータを利用してもらうことに同意しました。外科のお医者さまによると、私のケースはそれほどまでに珍しく、また難しいものだったため、かなり貴重なものになる可能性がある、とのことでした。言うまでもなく、私は賛成し、署名しました。何らかの形で他の人の役に立つことができればと望んでいます!また報告します!


未来の外科治療

シミュレーショントレーニング:
実世界のデータを使用し、外科的手技における見た目や手触りなどを、リアルに感じられる学習環境を構築します。多岐にわたる処置法や低侵襲なインターベンションのトレーニングを可能にします。
パーソナライズされた治療計画:
臓器の画像を元にコンピューターで3Dシミュレーションが生成されます。VRゴーグルを使用したうえで、手術の種類に応じて、3Dプリントモデル、もしくはバーチャルリアリティ(VR)モデルなど、最良のアプローチが選択されます。
手順ガイド:
様々な拡張現実(AR)ツールを用い、手術リスクの低減、および手技時間の短縮に貢献します。外科手術および処置を標準化したり、または部分的に自動化するのにも役立ちます。


人工知能(AI):
AIは症例に基づいて、早期に病変を識別し、治療計画のために使用されます。大規模なプロセス・データベースにより、AIは自己学習のためのガイダンスツールの役目を果たしたり、次世代の外科用ロボットの重要なコンポーネントとなることもあります。
ワークフロー最適化:
ワークフロー最適化技術により、外科医は、より正確に、より早く、より安全に手術を行うようサポートします。センサーからの情報とAIとにより、個々のプロセスにおいて「デジタルワークフロー・ツイン」が生成されます。これは、進行中のインターベンションのプロセスをまるで「知っている」かのような、その状況に沿った特定ツールを利用できるようアシストしたり、AR / VRを介して関連情報を照合するなど、インテリジェントな手術の実現に役立ちます。


著者について

Philipp Grätzel von Grätz: 医師を経て、現在は医療ジャーナリスト。


このページをシェアする

本ページに記載されているお客様のコメントは、そのお客様の独自の環境で達成された結果に基づいています。いわゆる「典型的な」病院はなく、また多くの異なる条件が存在するため(例:病院の規模、ケースミックス、導入するITシステムのレベルなど)、他のお客様が同じ結果を得られるという保証はありません。