がん診療の新しいかたち

~先進医療が可能にする次世代の医療連携~ 戸﨑光宏先生スペシャルインタビュー

2016-09-30

鹿児島市で乳がん診療を中心とした女性医療を展開する社会医療法人博愛会 相良病院とシーメンスは、2019年竣工予定の新病院「女性医療センター」の設立・運営に関し、2015年4月にパートナーシップ協定を締結しました。その一環として2016年9月に導入された全身統合型MR-PETシステム「Biograph mMR」について、同院の乳腺科・放射線科部長の戸﨑 光宏 先生にお話をうかがいました。


MR-PETシステムの導入でより高精度ながん検査が可能に

パートナーシップの一環として、2016年9月に導入された全身統合型MR-PETシステム「Biograph mMR」。

これは、MR画像とPET画像を同時に撮影できる最先端医療機器で、シーメンスが世界に先駆けて2011年に販売を開始しました。現在*1、シーメンスの『Biograph mMR』は世界で約80台が稼働しており、MR-PETのマーケットシェアとしては約80%を占めています。もともとは脳機能を見るための頭部専用装置として研究開発が始まったのですが、それが進化し、3テスラMRIとPETを組み合わせた世界初*2 の全身統合型MR-PETシステムの開発へとつながりました。開発には莫大な費用がかかっていますが、売り上げの約8%を研究開発費に充てるという、世界のグローバル企業でもナンバーワンといっていいほどの研究開発への投資が、こういった世界をリードする技術に結びついています。

MRI装置はコントラストに優れた画像が特長で、数種類の画像を組み合わせて臓器や病変部を描出することで、数ミリのがんまで見分けることが可能だといわれています。一方、PET装置は、かたちではなく、活動レベルで病巣を画像化するため、成長が初期段階の比較的小さながんの発見が期待できます。また、一度に全身を撮影することで、がんの転移の有無を調べることも可能です。

つまり、MR-PET検査を行えば、MRI画像から得られる解剖学的情報と、PET画像から得られる病変組織の代謝情報を一度の検査で同時に得ることができるため、短時間でより高精度ながん検査が可能になります。

すでにPET/CTの画像診断における有用性は認知され、活用も進んでいますが、装置としては一体型であるものの、撮影のタイミングは完全に同時ではありません。これに対しMR-PETは、MRIによる形態・機能情報とPETによる細胞レベルの活動・代謝情報という異なる診断情報を、同じタイミング、同じ位置で撮影することができるため、病変の機序を同時に評価することが可能です。さらに、MRIは複数のコントラストを同一のポジションで撮影できるので、軟部組織のがん診断にはより有用だと考えられます。また、MRI自体は放射線を使用しませんから、検査の低被ばく性もMR-PETの特長です。検査時の痛みは全くないため、乳がん検診に使用する場合は、患者さんの負担が大きく軽減します。

 

*1 2016年9月時点
*2 2012年2月自社調べ


世界の関心を集める乳がん領域をメインとした活用

「Biograph mMR」は、世界的にも、主に先端医療施設や大学病院、研究機関などに導入されており、使用目的は7割程度が研究主体。日本では相良病院が4台目となりますが、乳がん領域をメインとした活用は、世界的に見てもあまり例がないため、同院での今後の臨床実績や共同研究の成果には、多くの関心が寄せられています。

日本を代表するMRIのスペシャリストでもある、さがらブレストピアヘルスケアグループ乳腺科部長、相良病院附属ブレストセンター放射線科部長の戸﨑光宏先生は、「Biograph mMR」の具体的な活用領域や、今後の新たな可能性について次のように語っています。

 " これほどの装置を使用できる機会に恵まれたのですから、最大限フル活用しようと考えています。当院の専門性からして、まずは乳がん治療における薬物の効果判定への活用があげられるでしょう。私は、以前いた施設で、おそらく乳腺領域では世界で一番多くのMRスペクトロスコピーを行い、その多くのデータを基に国内外の学会で発表してきました。その有用性はアメリカのガイドラインにも引用されています。その施設にはPET/CTもあったので、かなりの頻度で同一患者さんのPET/CTをMRIと同日に撮影していました。その乳がん患者さんのデータを基に「PETとMRスペクトロスコピーの相関性」というテーマでAJR誌等*1 に論文を書いたこともあり、PET検査のデータがファンクショナルであり、乳がん領域にも必要性が高いことは実感していました。

 

 そこで当院では、外科チームと連携して乳がん治療の途中に「Biograph mMR」で治療薬の効果を判定し、その患者さんに合っていないと判断できる薬物は早めにスイッチし、効果の出ている薬物は長期間継続するといった、画像によるファンクショナルイメージングを治療戦略に取り入れるという概念を、世界に向けて発信していきたいと考えています。MR-PETであれば同じ体位で同じ時間に同時撮影できるので、説得力のあるデータが提示できると思っています。

 

 近年、「遺伝性乳がん」が日本でも注目されるようになってきました。日本の調査研究でも、日本人の乳がん全体の5~10%には遺伝性の可能性があることが報告されています*2

乳がん発症ハイリスクの人たちは、乳がんを抑制する遺伝子であるBRCA1あるいはBRCA2に変異がみられるため、胸部X線写真やマンモグラフィといった、一般の人には全く問題にならないような被ばく線量でも乳がんを発症する可能性があるといわれています。

 

 アメリカでは、ハイリスクかアベレージリスクかによって、その後の検診の在り方や使用するモダリティが違ってくるのは常識で、乳がん検診ガイドラインの一番初めに明記されています。当院でも、ハイリスクの人たちには最初からMRIを使用した検診を行っていこうと考えています。MRPETは、その側面でのポテンシャルも高いと思うので期待しており、今後は、日本人に適したフォローアップ体制やガイドライン作りにも注力していきたいと考えています。"


*1 ・ Tozaki M et al; 1H MR Spectroscopy and Diffusion Weighted Imaging of Breast: Are They Useful Tools for Characterizing Breast Lesions Before Biopsy?; AJR 2009; 193: 840-849
・ Tozaki M et al; Monitoring of Early Response to Neoadjuvant Chemotherapy in Breast Cancer With 1H
MR Spectroscopy: Comparison to Sequential 2-[18F]-Fluorodeoxyglucose Positron Emission omography; J. Magn. Reson. Imaging 2008; 28: 420-427
*2 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(2011データ)より


医療連携のさまざまなかたちを鹿児島から世界に発信

相良病院を運営する社会医療法人博愛会は、質が高く効率的な医療提供体制確保のために国が認定制度づくりを進めている「地域医療連携推進法人(仮称)」の設立も見据え、今年4月に新村病院を運営する医療法人真栄会と業務提携しました。新村病院は前立腺がん治療を中心とした泌尿器領域を専門にしており、共に鹿児島市の中央部に位置しています。薬剤の共同購入といった経営面のメリットに加え、MR-PETや手術支援ロボットといった両院が持つ高度医療機器を共同利用し、手術や治療でも支援しあうことで、それぞれの強みを活かしたがん専門グループとしてのブランド確立を目指すのが狙い。

 " MR-PETを設置する予定のさがらパース通りクリニックでは、術後のフォローアップや放射線診断、放射線治療も行っています。これだけの機能が備わっている施設を乳がんだけに特化するのはもったいないという思いが、今回の業務提携につながっています。"

と、戸﨑部長はその経緯を振り返ります。

 

前立腺がんなど膀胱近辺にある病変部位は、畜尿や排尿の影響によって膀胱の大きさが変化してしまうので、撮影のタイミングが異なると特定しづらくなります。PET/CTでも完全同時ではなく、数分の時間差ができてしまいますが、MR-PETであれば完全な同時撮影ができるので、空間的にも完全に一致した形態情報が得られます。さらに、リンパ節などの微小病変の位置関係の情報も得ることができるため、その後の放射線治療におけるポジショニングや、ターゲット決定の精度を高めることも期待できます。

 "MR-PETの開発は、脳機能の研究から始まったとのことですが、今後は近隣施設にも協力いただくようなかたちでMR-PETを活用した共同研究などを行っていければ、当院はオンコロジーセンターとしての役割も果たしていけるのではないかと期待が膨らんでいます。医療連携のかたちは地域や施設によってさまざまですが、ひとつのモデルとして、いろいろな施設のドクターやスタッフが出入りでき、医療機器も共同利用できるようなオープンな結びつきというのがあってもいいかもしれないですね。それが新しい分子標的薬剤や放射線治療の開発といったものにつながっていくかもしれません。そういった情報を鹿児島から世界に発信することで、メディカルツーリズムなどの新しい展開が生まれ、鹿児島というエリアを盛り上げる原動力になってくれればいいなと思っています。"